– ぶどう観察日記 –
2009年のジュネーブ日本倶楽部(JCG)設立10周年記念にワインクラブが企画しました!
2009年10月31日(土) 曇り
ジュネーブに冬の訪れを感じさせる、少し寒い曇り空のもと、17人が観察会に参加しました。
今回のテーマは「アルコール発酵」。でも、醸造所に行く前に、農場主のロシェさんに「収穫後の畑を見に行こう」と誘って頂きました。
ぶどう収穫後の畑を見ました
ぶどうの生育サイクルは1年間で、萌芽、展葉、開花、結実、果実肥大、着色、成熟、落葉、休眠を繰り返します。ロシェさんのぶどう畑でも、収穫が終わり静かに落葉の季節を迎えていました。ぶどうの葉は霜に弱く、霜の影響を受けたぶどうは葉が褐色に変化し落葉が早くなります。少しの場所の差、気温の差で、変化の度合いが違っていました。ぶどうの種類によっても枯れ葉の色には差があり、一般的な品種では黄色や茶色となって落葉するのですが、ワインの色調調節に使用されるデュンケルフェルダー種(Dunkelfelder)などは真っ赤な葉となっていました。
もう少し気温が下がると、新梢の成熟が進み、水分含量が低下、デンプンの蓄積が起こって落葉。その後、生長器官で自発休眠を開始し、低温期間を過ごした後で、他発休眠へと移行します。春になって気温が上昇し始めると樹液流動が起こり、新たな生長サイクルが始まるそうです。
ロシェさんの畑でも休眠期に入った一部のぶどう品種では、来年に向けての準備作業が着々と進められていました。
その1剪定・整枝作業
第1回の観察会(3月)では、ギュヨー方式の剪定(1本長い枝を伸ばしていく方法)を学びましたが、今回観察したのはコルドン・ロワイヤル方式です。芽をふたつ残して、そこから若木が成長して行きます。3つ目が出てしまうと、養分が取られてしまい、いいぶどうにならないので、それは切り落としてしまうそうです。ぶどうの種類によって剪定方法が違うとのこと。
そのほか、来年・再来年のための苗木作りなども見せてもらいました。


その2古い株の掘り起こし作業
ロシェさんのワイナリーでは、毎年ぶどう畑全体の3%に当る古い株を掘起し、新しい株へ植替えを行っています。掘起した古い株は雑菌などの繁殖を防ぐため焼却処分されるそうです。丁度、観察会のときにも、50年以上もの古いぶどうが植わっていた畑が、支柱やワイヤを取り除いた後、枝を切り落として、U字型の歯のついたトラクターで根こそぎ掘り起こされ、最後に木に火がつけられ、1週間かかって真っ白な灰の山となっていました。
掘り起こしたぶどうの木は、①燃やしてはいけない、②雑菌が繁殖せぬよう早く燃やせ、と相反する条例があり、その判断は畑の所有者に任されているそうですが、ロシェさんは②派で、灰の埋火でソーセージを焼いていました!おいしそう~!

その3「土壌改良」という名の大根栽培!
畑によっては、すぐに新しい株を植えずに1~2年間休耕とし、その間に畑の水抜き作業や土壌改良のためにコンポスト(堆肥)を加えたり、作物を植えたりするのですが、たまたまロシェさん畑で水抜きの土壌改良のために使っていた作物というのが…、何と「大根」で、土の表面から顔を出している青首の部分が魅力的で、「別に…取ってもいいよ」とのロシェさんの言葉に、一同大歓声!17名が手に手に大根をぶら下げて歩く姿は壮観で、ぶどう観察会が大根掘り大会に姿を変えたのか、と思う一幕もありました。


いざ、醸造所へ!
いよいよ今回のメインテーマであるアルコール発酵の勉強のため、普通は入ることが出来ない醸造所に入れてもらい、醸造の真っ最中の、ぶどうジュース~ワインの中間のものを試飲させて頂きました。実は、こんなことは滅多にさせてもらえないことだそうで、大変貴重な機会を提供して頂きました。

アルコール発酵は、ぶどうがワインに変身する過程そのもので、醸造、ひいてはワイン製造全体の中で、もっとも中心的なものです。ぶどうの中の糖分が酵母(単細胞の微生物、直径約0.01mm)によりアルコールと炭酸ガスに変化する反応で「主発酵」ともいわれます。発酵の期間は通常1~3週間くらいだそうです
(酵母)
糖→エチルアルコール+炭酸ガス+(熱)
このとき発生する炭酸ガスが厄介者で、ぶどうの皮が発酵タンクの上に押し上げられて帽子のように盛り上がってきます。これを果帽(粕帽)といい、このまま放っておくと液温が上がりすぎたり有害な微生物の温床となりワインの品質を落とす原因となるため、果帽を撹拌したり果液の中に押し戻したりして常に果皮が果液に浸っている状態を作らなくてはなりません。これが、櫂入れ=パンチング・ダウン、ルモンタージュと呼ばれる作業で、ロシュさんのタンクでは1日1回、ポンプを使って行っているそうです。


赤ワインのアルコール発酵方法は、皮や種から、色素や渋みを抽出する必要があるため,果皮や種を果汁と一緒に発酵させ、醗酵が終了した時点でプレス機にかけて固形物を分離します。赤ワインの発酵温度は、25度から32度程度が一般的です。
白ワインのアルコール発酵方法は繊細さを強調させるため、皮や種はあらかじめ取り除き、「果汁のみで発酵」させます。白ワインの発酵温度は、だいたい15度から23度程度です。
ロゼワインは、色素成分を得るため、黒ぶどうを使います。ロゼには製法が2つあり、ひとつは赤ワインの発酵が始まりワインがわずかに着色したところを見計らって液体を取り出し、そのまま発酵を継続させる方法でセニエ方式と呼ばれています(例:ローヌ地方のタベル)。もうひとつは白ワインと同様の方法で、黒ぶどうをつぶし、皮と種を除去し、色づいたぶどうジュースをそのまま発酵させる方法です。ロワール地方のアンジェ・ロゼがその代表例です。
今回試飲をしたアルコール発酵直後のワイン
ワインとして完成するのはまだまだ先ですが、アルコール発酵直後のものを飲ませて頂きました。ぶどうジュースの味が残っていて、何とも不思議な飲み物なのですが、これから時間をかけて、手間をかけて、素晴らしいワインになっていくそうです。楽しみです。
- 赤 ガメ、ギャマレ、メルロー、デュンケルフェルダー(色調を改良するための品種。とても濃い赤で、飲んだ後の舌の色は・・・!)
- 白 アリゴテ、シャスラー、発泡酒のベースとなるワイン(混醸)
赤ワインの色は、 ぶどうの外皮部分に含まれているアントシニアンが抽出することで赤い色となります。アントシアニンはポリフェノールの一種で、ポリフェノールにはこの他にタンニンや各種芳香物質などが含まれています。
おわりに
今回の観察会はハプニングがいっぱいでした。「大根収穫祭」に加えて、ぶどう園に出没する野生の鹿にも出会うことができました。そのほか、イノシシ、野ウサギなども出没するそうです。
いつものとおり、農場主のロシェさんには今回も何から何まで面倒を見てもらいました。掘りたての大根を両手にわしづかみにして闊歩している奇妙な日本人17人を見て、急遽、持ち帰りのための手提げ袋まで用意して頂きました。参加者一同、大満足、大感謝の一日となりました。
次回はアルコール発酵の終わりから、ワインとなって出荷されるまでの工程を勉強する予定です。ビン詰め前のフィルター作業は必見!一年にわたるい観察会も、いよいよ大詰めです。
10月の観察
ぶどうの収穫もすっかり終わり、いよいよワインの醸造に入ります。今回のテーマは、アルコール発酵です。静かに、しかし、劇的に変化していくぶどうの果汁を観察します。
覚えた言葉
「マロラクティック発酵(第二次発酵)」
ぶどう果汁は、まず「アルコール発酵(第一次発酵)」によって糖分がアルコールに変化し、『お酒』となっていくのですが、赤ワインや一部の白ワインではさらに乳酸菌による第2の発酵「マロラクティック発酵」が行われ、ぶどうに含まれていたリンゴ酸が乳酸菌によって乳酸に変化します。爽やかですっきりしたリンゴ酸が、やさしく味わいのある乳酸に変わることでワインはまろやかさを増し、乳酸菌が発酵中に生成する香気成分はワインに複雑さを与えてくれます。

葉もすっかり黄色くなったぶどう畑…

葉もすっかり黄色くなったぶどう畑…

来シーズンに向けて、すでに剪定作業が始まる。