2009年のジュネーブ日本倶楽部(JCG)設立10周年記念にワインクラブが企画しました!
– ぶどう観察日記 –
9月5日(土) 快晴
平日は雷雨続きのジュネーブでしたが、土曜朝には快晴となり約3ヵ月ぶりの観察会開催となりました。 ぶどう畑には、色とりどりのぶどうがふさふさとなっており、手が自然と枝に伸び、触れてみたい衝動にかられます。翌週火曜日からは発泡酒用のシャルドネの収穫が始まるそうです。


今回のテーマは「ぶどうの糖度と機械について」です。収穫前のこの時期、ぶどう生産者の関心事項は自らが精魂こめて育てたぶどうちゃんがどれほど甘く育ったかについて。ぶどうはその年の日照量、雨量により育つペースが違いますので、ロシェさんをはじめとした作り手の皆さまは、ぶどうを観察し、過去データと比較しながら、その熟成度を見極めます。そして収穫後は各種機械を利用した作業を行います。
ぶどうの熟成度を知る作り手が、その年のぶどうの熟成度を知るにあたり参考にするものは自身の地域の自治体(ジュネーブの場合、ジュネーブ州)が発表する、ぶどうの生育状態、ぶどう果汁の糖度、総酸度、Ph、フェノール化合物等に関する統計です。過去データと比較することで、今年のぶどうの作柄や収穫のタイミング、さらにはワインとなった時の特徴を推察することが出来るそうです。ジュネーブ地域では毎週月曜日にデータ測定が行われ、水曜日にデータがウェブサイトに発表されます。
ぶどう汁は以下成分で構成されますが、今回はこのうち「糖類(糖度)」について教えて頂きました。
- ぶどう果汁の成分
- 水分+: 70~85%
- 糖類(果糖、ブドウ糖): 10~25%
- 有機酸類(酒石酸、クエン酸、りんご酸等): 少々
- その他(ミネラル、タンニン、グリセロール等): 少々
では、ぶどうの糖度はどのように測るのでしょうか? 糖度の計測単位は地域・国により異なるそうですが、主要な計測単位は以下の通りです。
- エクスレ(Öechsle): ドイツ、スイスなど
果汁と水の比重の差を測定した値で、例えば果汁1000mlの重量が1090gならば、その差である90がエクスレ値となります。エクスレ値から15を引き、それを6で割るとその果汁から造られるワインのおおよそのアルコール度数が算出されます。
例: エクスレ値75の果汁ならば、(75-15)÷6=10、約10度のアルコール分を有するワインとなります。 - ブリックス(Brix): アメリカ、英国など 多くの国で採用
1リットル中の非揮発性溶解固形物(エキス分)の含有率を示しています。含有率の90%以上は糖分なので、糖分含有率に近い値となります。
つまり、BRIX≒糖分含有率(%)、BRIX≒潜在アルコール度数×1,8 ということになります。 - ボーメ(Baumé): フランス、ヨーロッパ諸国
果汁に含まれる糖分をすべて使い切って発酵させた時のアルコール度数(潜在アルコール度数)とおおよそ一致します。
つまり、Baumé≒潜在度数(%)、Baumé≒実アルコール度数+残糖分 ということになります。


糖度は期間中に天気が良いと上昇し、雨が多いと重量が増そうです。それではお待ちかねのぶどう畑へ! どこまでも続く美しいぶどう畑に囲まれて、しばし幸せ気分です。
さて、前述の通り、糖度の測定には通常屈折率を利用した「ブリックス値」が使われています。ちなみにブリックスというのは19世紀のドイツの発明家の名前。「屈折率」は試料の汁の中の糖含有量によって変わります(糖の含有量が多いほど、屈折率が大きくなる)。この濃度と屈折率が比例する点に着目してつくられたのが糖度計です。実際には光の屈折率を決めるのは密度ですが、果汁を対象とした場合、密度を決定する要素のほとんどが浮遊糖の含有量によるものであることが根拠となっています。
● 試料液が薄い→プリズムの屈折率と差が大きくなる
● 試料液が濃い→プリズムの屈折率と差が小さくなる
では早速、屈折糖度計(Réfractomètre)を使ってみましょう! 使い方は簡単。糖度計の先端レンズ部分に葡萄果汁を垂らして、 覗き込むと… 、筒内部に糖度が水銀計のように表示されます!
次に収穫後に使用する機械の見学をさせて頂きました。
除梗破砕機
茎(果梗)を取り除く機構と(場合により、全部または一部を除梗せず、よりタンニンや酸を多く与えることもある)+ぶどうの果皮を破ける程に軽く潰す機構を兼ね備えた装置。 このあと 白ワイン → プレス機で圧搾、 赤ワイン → 発酵タンクで醸し発酵
圧搾機(ブーハー型とバスラン型の2種類)
ブーハー型(空気圧式膜圧搾機)
空気の力でタンク内の風船を膨らませることにより圧搾する機械。それほど多くのブドウ果汁がとれるわけではないが皮と種にダメージを与えないので、非常にクリアなきめの細かい果汁を搾汁できます。クリアな果汁が求められる白ワイン向きの圧搾機です。右の写真は、 タンク内の風船です。ちょっと分かりにくいでしょうか?
バスラン型
ゆっくりと回転しながら徐々にドラム内の圧力を上昇させることにより、ぶどう果実を搾汁する機械。モーターの力によって強い圧力をかけられるため、たくさん果汁が取れる赤ワイン向きの圧搾機です。搾汁前にタンクで発酵する赤ワインは皮と種の成分がたっぷり抽出されているため、ブーハー型圧搾機で搾汁する果汁のようなクリアさは要求されません。
おわりに
3月から観察をはじめてから早6ヵ月。当初は枝だけだったぶどうの木にやがて葉がつき、花が開き、そして、ぶどうがなる過程を観察する機会に恵まれたこと、また、ロシェさんのような暖かく素晴らしい作り手の方に色々とお話を伺えたことは、本当に貴重で感動的な体験でした。
次回は、いよいよ収穫祭!この半年間、愛情をもって見守ってきたぶどうちゃん達の晴れ舞台がとっても楽しみです。
9月の観察
今月は、ぶどうがたわわになった畑で「糖度確認(?!)」という名目のもと、ロシェさんの畑にある様々な種類のぶどうをご好意で味見させて頂くことができました。
知識のない私は、ワイン用のぶどうは食用と違い、あまり美味しくないのかと思っていたのですが、とってもジューシーで美味しいぶどうでした。
覚えた言葉
Mise à Ban du Vignoble
「Mise à Ban du Vignoble(ぶどうの盗み食いは罰金です)」という看板をぶどう畑で発見しました。現在の罰金は50~100フランだそうです。ちなみに、ぶどうが重宝された中世であれば罰金では済まず、処刑もあったとか、なかったとか。
収穫前のぶどう畑は散歩等で通れる場合が多いようですが、摘み食いは禁物。でも優しいロシェさんは「ちゃんと畑の持ち主に確認したら、大抵は了解してくれるよ」とおっしゃっていました。

9月のぶどう畑

3月から観察してきたぶどうが実りました!

重い房になったぶどうと緑の葉がどこまでも続きます。

このまま食べても、甘い果汁がたっぶりのぶどうでした。