🍇ワインを造ろう!ぶどう観察日記

2009年のジュネーブ日本倶楽部(JCG)設立10周年記念にワインクラブが企画しました。

普段の生活では、あまり意識に上らないものですが、ジュネーブは近郊に葡萄畑が広がり、毎年多くのワインが生産されているという、ワインを愛する我々にとっては、大変恵まれた環境に囲まれています。
とかく完成品のみが云々されがちなワインですが、葡萄の生育から収穫、醸造、熟成といった段階を経て、ワインが出来上がっていく過程を身近に眺めてみよう、というのがこの企画の原点です。
ジュネーブ近郊のワイン醸造家に協力してもらい、今年1年間を通して葡萄の生育の様子をつぶさに観察しながら、自分達の手で葡萄を摘み取り、醸造工程に立会い、ワインに 仕上げるまでをフォローしていきます。そして、観察してきた内容は、このサイトを通して、JCG会員の皆様にお伝えしていく予定です。
さあ、あなたも、我々ワインクラブと一緒に、葡萄の、そしてワインの勉強を始めようではありませんか!


3月21日(土) 晴れ、風強し

いよいよ今日は第1回目のぶどう観察会。これからお邪魔するワイナリーはPeissyにある「Les Perrières」というところ。ジュネーブからは車で西に15分ほどいったところにあります。お天気も味方してくれたのか、ピーカンの青空です。

9時半にワイナリーに到着してまずはオーナーのロシェさんからジュネーブでのワイン造りについてお話を伺う。なんとジュネーブのワイン作りは2000年も前から行われているのだとか。ちなみに、ロシェさんのぶどう園は、建物も含め、200年の歴史があるそうです。昔の農家はぶどう栽培に穀物生産、畜産と複合的にやっていたのをロシェさんのお父さんの代に畜産はやめ、その後穀物の畑も友人に譲って、ぶどう栽培(ワイン造り)に専念することにしたのだとか。

ワイナリー入り口

ロシェさんの管理するぶどう畑は全部で103ha(東京ドーム約22個分)、うち16haはロシェさん所有の畑で残りは借り受けたりして管理を任されている部分。農家の後継者不足はこちらでも深刻で、そういう家から任されることが多いんだとか。幸いロシェさんのおうちは4人のお子さんのうち、上のお嬢さんとその下の息子さんがワイン作りを継いでくれるということで、将来も安泰です。

山並みを背景にしたぶどう畑 

さて、ワインづくりに関する一般的なお話を伺った後はいよいよ本日のテーマであるぶどうの剪定について。まずはロシェさん愛用の剪定鋏を見せていただきました。刃にはロシェさんのイニシアルも彫られています。この鋏は通常のに比べて刃が短いタイプだそうで、その分、枝を切るのに力が必要とのことですが、2枚ある刃の片方が細身になっていて枝を落とすときに隣の残す枝を傷つける恐れが減るんだとか。

剪定ばさみ 

その後は畑に出て、ぶどうの接ぎ木の理由や接ぎ木のやり方、実際の剪定作業を見学。 ぶどうの木は種類にもよりますが、30~45年ほどで収穫量が落ちるので、そのぐらいのサイクルで古い木を新しい苗に植え替える必要があるそうで、ロシェさんの場合、自分が管理している畑のうち、毎年約3%の部分の木を植え替えるのだそう。そして、新しく植えた苗は3年間は収穫が期待できないため、全体の約10%はその年の収穫対象から外れる勘定になります。やはりそれなりの面積の畑を持っていないとワイン作りだけで十分な収入を得るのは難しいようです。

 なお、こちらではぶどうの苗木は接ぎ木で増やされますが、これはアメリカからやってきた虫の被害(地下に潜って根から樹液を吸って木を枯らすのだとか)を防ぐために、この虫に耐性のあるアメリカのぶどう種を台木に、質のいい実のなるヨーロッパ産の種を接いでいるのだそう。19世紀の終わりぐらいに被害が広がった際に懸賞金を付けて対策を募集し、それからこの接ぎ木手法が広く使われるようになったそうです。

剪定方法をレクチャー中のロシェさん 

接ぎ木のやり方としては、まず、台木となる枝と接ぎ木する枝の切り口を消毒し、切り口同士をあわせた後、特別な容器に入れて1ヶ月ほど落ち着かせ、落ち着いたところで接いだ部分にパラフィンをかけて保存。1年後にうまくいっていれば根と芽が出て、苗木として畑に植えられるようになるのだけど、成功率は65%ほどとか。なので、新しい苗だと継いだ部分にまだパラフィンが残っているのが分かります。

苗木 

剪定の方法は最近はグイヨー方式(グイヨーさんが開発)というのが主流で、やり方としては、今年の若枝のうち、根元に近い2本を残し、うち根元に近い1本は次の世代のために芽を2つ残して短くカット。もう1本は芽が10ぐらい残る程度の位置でカットして、余計な枝も落として、こちらは鉄線に絡めるようにして横にはわせます。この枝にいくつ房を生らせるかによって枝の長さ(芽の数)を決めるのですが、最大8つまで芽は残せるとか。でも、5月半ばぐらいまでは霜の被害で枯れたりする分があるので、今の時点では少し多めに残しておくそうです。霜の恐れがなくなったら、残った芽のなかから有望なのを改めて選択するのだとか。ちなみに、切断したところから枝が乾燥していくので、芽からは1cm以上離してカットするのと、なるべく切断面が小さくなるように枝に垂直にカットするのが剪定作業の際のポイントだそうです。剪定の方法には他にも主枝をそのまま鉄線に沿わせてのばして行く方法などいろいろあります。どういうやり方を取るかは、畑の土壌や苗の種類、日照等の条件によって決めるそうです。

枝カット作業のアップ 剪定終了後の苗 剪定作業中のワインクラブメンバー 

今日は天気がいい割に風が強くて、われわれワインクラブ幹事一同、寒さに震えながらお話を伺っていたのですが、ロシェさんは畑に出ていると寒さなんか感じないそうで、かなり丁寧にレクチャーをしていただいたばかりか、ワインクラブ幹事の精鋭3人が実際に剪定作業を体験させてもらいました。もっとも剪定させていただいた苗はロシェさんの畑のものではなくて、我々が見学に来るというので事前に所有者であるお隣さんに、ロシェさんが鋏をふるうことを前提に剪定作業を行うことを許してもらった畑だとか。それなのに私たちが剪定してしまって良かったんでしょうか?結構お茶目なロシェさんです。

シャルドネ・ド・ペシを味わう

おまけ
剪定作業の見学の後はCaveに行っての試飲会。本来は予定にはなかったのですがロシェさんのご厚意でシャルドネ・ド・ペシを振る舞って頂きました。この白ワインは「藁のような黄金色、そしてエキゾティックな(グレープフルーツ、パイナップル)香りを彷彿させる複雑な味(以上リーフレットの記載より)」、大変美味しゅうございました。あまりの美味しさに、試飲させていただいたシャルドネほかここのご自慢のワインを購入する人多数。さすがはワインクラブ幹事です。来月の観察会は試飲会も兼ねてますので、きっと今日以上のワインの売れ行きとなることでしょう。


3月の観察
初めての観察です。
ジュネーブのワイン造りは、なんと2000年も前から行われているとのこと。今日のテーマは「剪定」。ぶどう栽培に欠かせない剪定の方法や何故ぶどうの接木を行うのかなど、丁寧な説明と実践で教えていただきました。


覚えた言葉
剪定(せんてい)
剪定は冬(休眠期剪定)と夏(成長期剪定)の年に2度行われる。
冬剪定:ぶどうの健康を保ち、果実がつく芽の数を決めるもので、これにより最終的な収穫量と潜在的な品質をコントロールしている。
夏剪定:ぶどう果をどのように、またどの程度太陽の光に当てるかを決めるために、葉の茂り具合を操作し、理想的な日照量を決定させる。これにより果実の糖度、着色 などの品質調整を行い、同時に風通しやカビの危険性等をコントロールしている。
剪定は同時に、整枝という意味合いを持っている。
低い位置の整枝は、地熱の恩恵を多く受け、風によるダメージは少ないというメリットがあるが、芽の位置が低いために遅霜の影響を受けやすいこと、風通しが悪くなるのでカビの生じる危険があること、などのデメリットがある。
逆に高い位置の整枝は、風通しがよくカビや遅霜の影響を受けにくいというメリットがあるが、ぶどうの熟成にプラスの効果を持つ地熱の影響は受けにくいデメリットがある。


3月のぶどう畑

剪定作業が終わってまっすぐに伸びたぶどうの畝

整枝され、すっきりとした苗木が並んだ様子